株式会社商船三井 2022年度WEB版中間報告書
大気中のCO_{2}を取りのぞく
「カーボン事業」でネットゼロ実現
海運業をはじめ二酸化炭素(CO_{2})の排出を伴う事業を運営する当社にとって、CO_{2}排出量の削減は喫緊の課題です。このため、船舶の燃料を環境負荷の小さいものへと転換する、より効率的な運航を行うなど、CO_{2}を極力出さない取り組みを進めています。しかし、地球の気温上昇を1.5℃以内に抑えていくためには、排出削減の取り組みと同時に大気中のCO_{2}を回収・除去する活動も重要となります。このため、当社は後述する「カーボン事業」を併せて行うことで、当社が目標とする2050年のネットゼロ・エミッションを着実に実行していきます。
当社グループでは、事業を通じて優先的に取り組むべき社会課題を「サステナビリティ課題」として特定しており、その一つが「Environmentー海洋・地球環境の保全」です。事業を通じて与える海洋や地球環境への負のインパクトを最小化し、世界中の人々が暮らす地球を持続可能なものとすることを目指しています。2021年6月には、持続可能な社会を実現するための道標として「商船三井グループ 環境ビジョン2.1」を策定し、気候変動対策、海洋環境保全、生物多様性保護、大気汚染防止という環境課題の解決に向けて取り組んでいます。中でも、気候変動対策を取り組みの中核とし、「2050年のネットゼロ・エミッション」に向けて、当社が運航する船舶の燃料をLNG(液化天然ガス)などに転換するなど、CO_{2}をできるだけ排出しないようにあらゆる施策を講じます。
しかし、2050年時点でどうしてもCO_{2}の排出が残る可能性があることに加え、1.5℃目標を達成するために世界全体で排出ができるCO_{2}の総量には限りがあることから、CO_{2}を大気中から回収・除去する「ネガティブエミッション」と呼ばれる取り組みが重要となります。
地球をバスタブに見立てると、今は蛇口からCO_{2}がどんどん注がれている状態で、あふれさせないように蛇口を閉めようとしています。蛇口を閉める取り組みに当たるのが、排出されるCO_{2}の量を減らす取り組みです。しかし、バスタブの中にはすでに大量のCO_{2}がたまっており、蛇口を閉める取り組みと同時に、バスタブの栓を抜く対策としてネガティブエミッションが必要になるのです。
当社は今年1月にエネルギー営業戦略部にカーボン事業チームを設置しました。このチームが中心となってネガティブエミッション事業への投資などのカーボン事業を進めています。
ネガティブエミッションに関する事業投資の第1号案件が、インドネシアの南スマトラ州で実施されている、マングローブ林の再生・保全を目的としたブルーカーボン・プロジェクトです。「ブルーカーボン」とは2009年に国連環境計画がつくった言葉で、マングローブ林や塩性湿地、海草藻場といった海洋生態系が吸収するCO_{2}のことを指します。このプロジェクトでは、マングローブの植林を専業で行っている日本企業、ワイエルフォレストとともにマングローブ林の再生・保全事業を展開します。ワイエルフォレストが従来から取り組んでいる1万4,000ヘクタールのマングローブ林の保全活動に加えて、10年間で新たに9,500ヘクタールの植林を行います。先ほどのバスタブの例えでいうと、劣化が進むマングローブ林を保全する活動は蛇口を閉める取り組み、新規植林がバスタブの栓を抜く取り組みとなります。
この活動は、自然界の力を活用してCO_{2}の吸収を促進する「自然ベース」の取り組みです。その効果は大気中のCO_{2}除去にとどまりません。森林の再生を通じて、生物多様性の保全や地域住民の雇用創出に貢献することもできます。
このほかネガティブエミッションには「技術ベース」の取り組みがあります。大気中のCO_{2}を直接回収して貯留する技術である「DACCS(Direct Air Capture with Carbon Storage)」や、CO_{2}排出量がもともとネットゼロのバイオマス燃料を使用した時に排出されるCO_{2}を回収し地中に貯留する技術「BECCS(Bioenergy with Carbon Dioxide Capture and Storage)」が代表的なものです。当社はその取り組みもサポートしています。
2022年5月、CO_{2}除去技術の普及・促進を目的とした「NextGen CDR Facility」に参加しました。これは世界最大手の気候ソリューションプロバイダーであるスイスのサウスポール(South Pole)が主催するもので、参加する企業がCO_{2}除去技術に由来するCO_{2}削減の価値を共同購買するプログラムです。「NextGen CDR Facility」はDACCSやBECCSなどの技術によって生み出されるCO_{2}削減価値を共同で2025年までに計100万トン以上購入していくことを目指しています。
技術ベースの取り組みはまだコストが高く、事業者は事業規模を拡大できていないのが現状です。当社は将来のメインストリームとなりうる技術ベースの取り組みに関しても早期に参入し、CO_{2}削減価値を大規模に購入する活動に参加することで、技術ベースのCO_{2}回収・除去の発展に貢献していきます。
また、ネガティブエミッションなどの活動を通じて生み出されたカーボンクレジット(CO_{2}の排出権)を使い、航海で排出されたCO_{2}を相殺する取り組みも行っています。
最初の取り組みは、今年3月に内航タンカーで実施したものです。国土交通大臣認可法人のジャパンブルーエコノミー技術研究組合がブルーカーボンを活用して発行した「Jブルークレジット」を約11トン分購入し、当社グループの旭タンカーが建造したゼロエミッション電気推進タンカーの「あさひ」が造船所のある香川県丸亀市から神奈川県川崎市までの航海で排出したCO_{2}と相殺しました。
外航輸送でも同様の取り組みを行いました。今年4月から5月にかけて当社が運航する自動車船「Beluga Ace」(6,800台積み)がマツダ製の完成車を積載し広島港から英国西部のブリストル港に向けて行った航海でカーボンクレジットを活用し、燃料消費によって排出されたCO_{2}を実質ゼロとしました。「Beluga Ace」がこの航海で排出したCO_{2}は燃料油の製造から本船で消費するまでの全過程で約4000トン。ガーナと中国の植林・再植林プロジェクトによって創出されたカーボンクレジットを購入しました。
自動車メーカーなどのお客様は、海上輸送の際に排出されるCO_{2}への関心を高めています。当社は今後、ネットゼロに至るまでの移行期におけるメニューの一つとして、燃料消費によって出るCO_{2}をカーボンクレジットと組み合わせて相殺する形の輸送サービスも提供していきたいと考えています。
今回のタンカーと自動車船での取り組みは第三者が発行したカーボンクレジットを購入して行ったものですが、将来的には当社が実施するネガティブエミッション事業を通じて、カーボンクレジットを創出することも目指しています。先ほど紹介したインドネシアのマングローブ林再生・保全プロジェクトでは、30年間にわたる森林保全によって約500万トン、新規植林により約600万トンの計約1100万トンのクレジット発行を見込んでいます。
また、当社はベンチャー企業投資を行うグループ会社を通じて、排出権取引などのプラットフォームの運営も支援していきます。
ネガティブエミッション事業への投資、CO_{2}の排出を実質ゼロとする輸送サービスの提供、そして、排出権取引の仕組みづくりといった多面的な活動を通じて、ネットゼロ・エミッションの実現に貢献してまいります。