株式会社商船三井 2023年度WEB版中間報告書
特集
フェリー、クルーズ事業が新体制に
非海運事業強化へ第二の創業
当社はグループの経営計画「{BLUE ACTION}^{ブルー アクション} 2035」で海運市況の影響を受けにくい安定収益型の事業としてフェリー、クルーズ、不動産事業など「非海運事業」の強化を掲げています。その実現に向けた体制づくりとして、グループのフェリー会社「株式会社商船三井さんふらわあ」とクルーズ事業会社「商船三井クルーズ株式会社」をこのたび発足させ、第二の創業という意識で新たな取り組みを進めています。
- BLUE ACTION 2035 (7,006KB)
当社グループは2022年11月、現在「にっぽん丸」(2万2,472総トン、1990年竣工)1隻で展開しているクルーズ事業に関して、2隻を新造する方針を決定しました。3万5,000総トン級の日本船籍で、2027年に第一船が竣工する計画です。
この新造船に先立ち、2009年に建造された3万2,000総トン級のクルーズ船を2023年3月に米国船社から購入しました。この船は全客室が28㎡以上・スイート仕様に仕上げられたラグジュアリークラスのクルーズ船です。今後改装などを経て、2024年12月よりサービスを開始します。これにより「にっぽん丸」との2隻体制とし、新造船を待たずにクルーズ事業の拡大計画を前倒しで実行します。
商船三井クルーズは2023年10月、新しいクルーズブランド名を「{MITSUI OCEAN CRUISES}^{ミツイ オーシャン クルーズ}」、また2024年12月に投入する船の名前を
「{MITSUI OCEAN FUJI}^{ミツイ オーシャン フジ}」に決定したことを発表しました。同船は2025年4月から100日間の世界一周クルーズに臨む予定です。
新たなクルーズブランド名には、日本の海運の歴史を築いてきた三井の誇りと、青い海から始まる未来への希望が込められています。「MITSUI OCEAN CRUISES」が大切にするのは、美しい自然や伝統文化に根ざした日本らしさ。上質な空間と心を込めたおもてなしによって、安らぎとくつろぎに満ちた船上の時間をすべてのお客様に提供することを目指しています。
「MITSUI OCEAN FUJI」は、新クルーズブランドを冠するとともに、日本のクルーズ元年といわれた1989年に就航し当社グループが運航した「ふじ丸」の名前も引き継いでいます。日本の象徴の一つとされる「富士山」も意識し、これまでのお客様と、新しく興味を持ってお越しいただく国内外のお客様にも分かりやすく、覚えていただきやすい名前であると考えました。
この船によって日本の上質なおもてなしと欧米のラグジュアリークオリティを融合した体験を創造します。これまで欧米のお客様に高品質なサービスを提供してきた本船を部分改修し、ラグジュアリーな施設に加え、日本らしい、きめ細やかなサービスを可能とします。コロナ禍以降のお客様の新しい価値観に沿った多様な選択肢の中から、お客様おひとりおひとりが幸せを感じる体験を提供いたします。それにより、まさに日本発祥のウェルビーイングを実現したいと考えています。
- 2023年10月12日プレスリリース (1,408KB)
当社グループの国内主要事業として長年にわたって行ってきたフェリー・内航RORO船(※注)事業では、主に首都圏発着航路を担当していた商船三井フェリー株式会社と、関西と九州を結ぶ航路を担当していた株式会社フェリーさんふらわあを事業統合し、全国統一サービスとして、2023年10月1日付で株式会社商船三井さんふらわあが発足しました。「商船三井」を冠してブランド力の向上と一体感の醸成を図るとともに、半世紀にわたって日本の物流を支え、船旅を通じて人々の豊かさに貢献しつづけてきた「さんふらわあ」ブランドを継承するという意図から名付けました。
それぞれの長い歴史を背負った両社の統合によって、新会社は6つの定期航路と運航船15隻を持つ国内最大のフェリー・内航RORO船会社としてスタートを切りました(図表)。統合により、グループ会社の経営資源を結集し、喫緊の課題である脱炭素社会・DX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進と、トラックドライバーが不足する「物流2024年問題」に対処すべくより効率的な運航サービスを確立することです。それにより、お客様の輸送ニーズの変化に柔軟に対応し、質量ともに一層の輸送サービスの向上を目指します。
また旅客サービスでは、消費者のライフスタイル・価値観の多様化による需要の変容を捉え、カスタマーサービスの改善やデジタル分野のマーケティング強化によって、上質な船旅としてのフェリーを気軽に楽しんでいただく「カジュアルクルーズコンセプト」を加速します。家族・友人、ペット、同僚、知人などとの「絆」「安心」「信頼」を感じられる心地よい船旅を提供することで、お客様のウェルビーイングの向上に貢献していきたいと考えています。
当社グループが設定しているサステナビリティ課題の一つに
「{Human & Community}^{ヒューマン アンド コミュニティ} 人の活躍と地域社会の発展」があり、事業活動を通じ、関わるすべての人々との共生、地域社会の持続可能な発展・振興を目指しています。今回発足した新会社はフェリー発着地の自治体や地域社会との結びつきを従来にも増して強化し、地方創生・地域経済への貢献に努めていきます。
(※注)ROROはロール・オン・ロール・オフ(自走式荷役)の略。貨物の積み降ろしをクレーンで行う荷役方式に対して、岸壁に降ろしたランプウエーの上を車両が走行して貨物の積み降ろしを行います。この方式の船舶のうち、一般的に旅客と貨物を輸送するものをフェリー、貨物輸送専用のものをRORO船と呼びます。
当社グループのフェリー事業、クルーズ事業双方が直面している重要課題の一つに、環境対応があります。
フェリー事業については、統合前の2社それぞれが、従来の燃料油と比べて二酸化炭素(CO₂)排出量を約25%、窒素酸化物(NOx)排出量を約85%、硫黄酸化物(SOx)排出量を100%減らせるLNG(液化天然ガス)燃料を使用するフェリーを計4隻発注。その1番船の「さんふらわあ くれない」が2022年12月、2番船「さんふらわあ むらさき」が2023年4月に竣工し、既存船「さんふらわあ あいぼり」(1997年竣工)と「さんふらわあ こばると」(1998年竣工)の代替船として大阪/別府航路にそれぞれ2023年1月と4月に就航しました。大洗/苫小牧航路に代替船として投入する3・4番船は2025年に竣工する予定で、これが新会社にとって記念すべき最初の新造船就航になります。LNG燃料フェリーは、最先端の技術とこだわりの設計によって環境負荷の大幅な軽減に貢献するだけでなく、船内の静粛性も大幅に向上しています。
当社は2023年4月に発表した「商船三井グループ 環境ビジョン2.2」で2050年のネットゼロ・エミッション目標達成に向けた具体的なアクションを定めました。その中の主要な施策である低・脱炭素船舶燃料への転換を、フェリーで先行的に進めます。
クルーズ事業では、「にっぽん丸」から本格化した環境対応を、今後投入する船でいっそう進めます。新造船は、燃料に重油と比べてクリーンなガスも使用できる三元燃料電気推進(※注)とすることや、港での停泊時に船の発電機を停止しCO₂排出量を削減するよう陸上から電力の供給を受けることができる設備を搭載することを検討しています。
また、先行して投入する「MITSUI OCEAN FUJI」についても、エネルギー消費量とCO₂排出量の削減につながる省エネ電気推進とするとともに、港で陸上から電力の供給を受けられるようにします。このようなさまざまな取り組みを通じて、より環境にやさしく快適な船旅を提供していきます。
(※注)三元燃料電気推進とは、燃料として重油、低硫黄油、ガスの3種類を使用することができ、それらの燃料を用いて船内でつくった電気でプロペラなどの推進器を動かすシステムのことです。
- 商船三井グループ 環境ビジョン2.2 (7,228KB)